あの頃。 感想
ハロプロのオタクでは無い……
というかハロプロの知識なんて『LOVEマシーン』『恋愛レボリューション』『桃色片想い』しかないんだけど、それでもとても良い映画だったなと思う。
原作者の実話がベースの作品だけど、後半の展開の内容が内容だけに敢えてそれはあまり気にせず書いていきたい。
大学を卒業するも色々と上手くいっていない主人公が『桃色片想い』のMVを見てハロプロにハマる。出会ったオタク仲間たちとの中学10年生のような生活。それが主人公の人生を大きく変えていく。
あらすじを書くと大体こんな感じ。
で、すごく表層的な話から始めてみると、まず、オタク仲間との日常シーンがどれもたまらなく楽しくて愛おしかった。
自分は「共感」で作品を良いなぁと思うことがあまり無いんだけど、コレに関してはひたすらにあるあるの連発だった。なんというか丁寧。登場人物のしゃべり方から何からとにかく「あ~こういうのあるよね」感がリアルでとても面白かった。
テレビを囲んでライブ映像を見ているシーンなんて、もはや自分の鏡映し。こういうのココ1年できてないなぁと考えると、なんだか懐かしい気持ちにもなった。
丁寧さといえば、モブとして描かれるオタクのそれっぽさもすごかった。
謎に関係ないスポーツのユニフォーム着てるおっさんとか、これマジで日常生活厳しいよなとなる挙動不審なやつとか、周りとは違う感出そうとしてるのか知らんけど妙にスカしてる風のやつとかとかとか。うんうん、いるよね、そういうやつ。で、本当にそれっぽいんだこれが。
聞くとどうやら原作者の方がかなりの頻度で撮影現場に入っていたらしく、なるほどさすがの説得力だった。
次に本質的に良かったところ。
この映画、「あの頃」という過去を振り返り、それが楽しかったなぁ、というだけの懐古主義的な映画じゃなかったのが本当に良かった。「あの頃」は楽しかったし、「あの頃」があってその地続きに「今」があるんだという主張。で、「今」が最高に楽しいぞ、というやつ。
見ていて楽しいに決まっている。
また、「あの頃」が単なる踏み台として消化されていないのも素晴らしかった。
ハロプロオタクをしているとき、ふとやっぱり自分は音楽をやりたかったんだと思い出す。で、仲間に「バンドやらね?」と持ちかけ、そこから以前諦めたバンド活動がリスタートしていくという流れ。
「バンドやらね?」を持ち掛ける相手がハロプロ仲間というのが本当に良かった。しかもみんなノリが良いこと良いこと最高かよと。楽器できない……歌ってやるぜ!!(へたくそ)とかまーじでたまらんのです。
いやぁ……見ていて本当に気持ちが良い。
「好きなもの」を通じて出会った人をキーにどんどん動いていく主人公。
そういう描写は「好きなもの」を追いかけることの良さをとにかく強調していたと思う。なんて嬉しい映画なんだこれは……
とはいえお話は最後、一人の死という意外な方向に進んでいく。
ベースは実話なので、この話題を映画における役割云々とかそういう風に扱うのは不謹慎だなとは思う。とはいえ、これがめちゃくちゃ良い味になっていたのは間違いないと思うので、それを承知のうえで以下感想を書く。(冒頭の文はそういうこと)
主人公は東京に行き、各々が別の道を歩み始めたころ、オタク仲間の一人『小泉』がガンになる。そして死ぬ。
まず良かったのは、このエピソードがお涙頂戴の悲劇として描かれなかった……むしろその逆であったところだと思う。
『小泉』はかなり拗らせていて、人間的にも終わってる部類の存在として描かれていた。とはいえ一緒にいるんだからガチで嫌われていたかというとそういうわけでも無く、あいつはそういうヤツ、いつもあんなだよね、みたいな距離感。で、仲間。(こういう関係もあるよね~と思った。)
そういう人間がガンになり、死ぬ。
そういう距離感だからかもしれないけど、ノリが軽いんだこのへんのエピソード。
本人まったく喋れなくて唸るだけの状況を前にして、「AV持ってきたで~」「お前知らんのか?今二次元にしか興味ないらしいぞ?」とか、死んだら死んだで「銅像つくったで~目が光るで~ゲラゲラ」とか、行きつけだった風俗の嬢にインタビューしてそれをイベントで流してみたりとか、棺の蓋開けて笑いながらフィギュア投げ込んだりとか。
一見それこそすごく不謹慎かもなんだけど、僕は逆にこれがとても温かいなと思った。要するに『小泉』は、そういう距離感のまま彼らの中に居続けるのだ。だから別に悲しむようなことではない。そういうノリなんじゃないかなと思った。
この温度感は最高だなと思った。
加えてこの『小泉』、各々がハロプロオタクから別の道を歩み始めた後、一人美少女アニメに没頭していたというのが面白い。
主人公はハロプロオタクからバンドマンへ。今が最高!!
一方『小泉』はアニオタに。そして死ぬ。
あぁやっぱりオタク趣味(あえてそういう言い方。ニュアンス伝われ。)のままじゃだめなんだ~そういうオタクは死ぬしかないんだ~~……って雰囲気見えちゃいもするんだけど、いやそうじゃないなと。
各々が別の道を歩み続けた後も、彼らを繋ぎ続けていたのは誰だったか。一人オタク趣味に没頭し続けていた『小泉』では無いか。
で、死ぬ。で、仲間の心の中に居続ける。
この生き方もめちゃくちゃカッコよく見えた。
このエピソードが無ければ、オタク趣味のままじゃなくて次のステップを踏むことが重要。それが無ければ「今が最高!!」なんてならんのです。的な雰囲気になっていたんじゃないかと思ったりする。
本当に悪い言い方だというのは承知なんだけど、やはり良い役割だった。
他にもいろいろあるけど、とにかく隅から隅まで本当に良い映画でした。
監督の作品全部見るべきじゃないかこれはとなりました。
過去作を見ながら、4月公開の『街の上で』を待とう。